広告は、人々の《表現の自由》を支えるもの

こんにちは、私は竹内好文と申します。元電通社員です。2022年3月で電通を定年退職し、9月までシニア社員で電通にお世話になっていました。

その後、1年半ほど、就業管理システムを提供するベンチャー企業、勤次郎株式会社のマーケティング部門の責任者をしておりましたが、妻から「人生でやり残したことはあるか、ってテレビの番組でやってた。」という話を聞いたのをきっかけに起業を考えるようになりました。

自分が考案した発信者識別技術Originator Profile (OP) の社会実装は、慶應SFC研究所の上席所員の立場でボランティアでお手伝いをしていたものの、その仕事も中途半端になっていましたから、自分の会社を作って本格的にOPの社会実装のお手伝いをしていきたい、と思い立ちました。

お世話になっていた勤次郎の経営者にわたしの想いを説明して、ご理解を賜ることができ、円満退社して自分の会社Y&Hを立ち上げました。

このページのタイトル「広告は、人々の《表現の自由》を支えるもの。」は、私が電通社員時代に書いた論文のタイトルです。この論文は、日本広告業協会の第49回懸賞論文で銀賞をいただきました。この論文は、こちらから読むことができるので、ご興味がありましたら、お読みいただけたら幸いです。

この論文で伝えたかったことの一部をご紹介します。おそらく、多くの方が「広告がなんで表現の自由に関係するの?」と疑問に持たれると思います。

実は、日本で初めての民間ラジオ放送が始まる1年前の1950年に、当時、電通の社長であり、東京放送創立準備委員長を務めていた吉田秀雄は、民放開始に備えた放送法案審議の参議院公聴会に招かれ、放送法の第1条にある「放送における表現の自由」について意見陳述しました。この放送法における「放送における表現の自由」とは、「NHK以外の民間事業者にも電波の使用を許す」というものです。こちらにこの意見陳述の全文を転載しました。

吉田は、NHKは受信料という大きな安定財源を持つのに、民間放送は広告収入だけで運営されることを前提にしているため、民間放送局が乱立すると広告収入が各局に分散化して共倒れになる可能性が高いことを当時の日本の広告マーケットの現状から理路整然と説明し、当面は1地区1放送局での民間放送のスタートを提案します。そして、この吉田の提案が採用されることになります。

電波利用は国の許認可事業で、元々、NHKしかその利用を認められていなかった。その電波利用を民間に開放する、つまり民放の創設時に、広告がその財源として充てられた。ですから、「民放の表現の自由」を広告が支えてきたのは確かなわけです。

私が「広告は、人々の《表現の自由》を支えるもの」と論文で書いたのは、インターネットが普及した今の時代のことです。私自身、Instagramで毎日の装いを発信していますが、そのInstagramが無料で利用できるのも、広告があるからです。私の表現の自由は確かに広告に支えられています。そういえば、2024年の6月ごろからはInstagramを運営するMETA社から広告収益の一部をインフルエンサーに還元する試みが始まり、私もその対象として案内が届きました。所定の手続きをしたら、わずかな額ではありますが、確かにボーナスが定期的に振り込まれるようになりました。いつまで続くのかは不明ですが。。。

InstagramやYouTubeなどのソーシャルメディアの普及で誰もが自由に自分を表現できるようになったのはとても良いことですが、それらのメディアに掲出されるデジタル広告にまつわるビジネスモデルがかなりおかしくなっています。

芸能人など著名人を誹謗中傷するような動画をYouTubeで流す、すると皆、興味本位でその動画を見てしまう、すると見ている人をGoogleなどのプラットフォームシステムが自動的に判別して、その人に最適化された広告が配信されます。でも、人を誹謗中傷するような動画に配信される広告主の立場からしたら迷惑甚だしいでしょう。

この問題を解決する方法はないものか、と考えて提言したのが冒頭にご紹介した論文です。この論文をきっかけにして、私は電通社員時代に「発信者が識別できる技術」を考えました。現在、この技術の普及のために、慶應義塾大学SFC研究所上席所員の立場で、Originator Profile技術研究組合の事務局メンバーとして参加し、微力ながら貢献しております。

「広告は、人々の《表現の自由》を支えるもの」という観点で、今のインターネットの広告のあり方を変える可能性があると思い、2018年ごろ、電通に投資を提案した企業があります。それが、ブラウザベンダーのBraveです。下の写真は、サンフランシスコのBraveオフィスを訪問して、協業を提案している時のものです。左端が私、右端のメガネをかけた男性がBraveのCEO、ブレンダン・アイクです。この方は、Webの標準技術であるJavaScriptの発明者でもあります。なお、残念なことに、今は電通とBraveには特別の関係はないようです。

Braveは、独特のビジネスモデルを持っていて、Webページの広告を全て消す代わりに、Braveのブラウザを利用するユーザーが広告視聴を選択すると、報酬として仮想通貨が支払われるというものです。私はもちろん、Braveの愛用者ですが、年間5,000円程度とほんの気持ち程度ですが、私の仮想通貨口座に振り込まれています。

さらに、Webサイトの運営者が、Braveのパブリッシャーとして登録しているなら、そのサイトを応援したいと思ったら、仮想通貨でチップを支払うこともできます。私自身、南三陸町の支援団体LOOM NIPPONの広報アドバイザーをしていて、そのWebサイトを運営しているので、Braveパブリッシャー登録をしています。月に1回ぐらいですが、Braveの仮想通貨BATでLOOMに寄付してくれる人がいます。

ブラウザBraveで出てくる広告の一例がこの写真です。新しいタブを作ると、全画面に広告が表示されます。これぐらいスペースもしっかりあれば、広告の作り手としても嬉しいです。

Braveを広告メディアに選んでくれる広告主がいるのはとても嬉しいです。わたしは定年で電通を離れましたから自分が広告主に直接セールスできないのはとても残念ですが、MINIはさすがセンスいいですね。次の車は、MINIにしようかしらん(笑)。

Braveは、YouTubeの鬱陶しい広告も消してくれるので、オススメです。プライバシー機能も優れているのと、なんといってもJavaScript発明者の会社ですから、セキュリティ対策も優れています。標準で、危ないソフトウェアを全てオフにしてくれるので、安心してインターネットを利用できます。ぜひ、こちらからダウンロードして使ってみてください。なお、私は今はBraveとビジネス上の関係は一切ありません。

こんな優れたブラウザが無料で利用できるのも、広告のおかげなのです。広告が嫌いな人は多いと思いますが、ちょっとだけでいいので、広告という仕事も私たちの暮らしに役立つこともあるんだねと評価してもらえたらと願っています。

ただ、広告ビジネスを悪用する人たちもいますし、著名人を騙った広告詐欺などに騙されないようにご注意をしてください。私が慶應SFC研究所上席所員の立場でお手伝いしているOriginator Profile(OP)技術は、この問題の解決にも使えますので、1日も早くOPの社会実装をしなくてはと考えております。

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